危険ドラッグのミーティングに参加
みなさんこんにちはエバコナのカースです。数ヶ月前になってしまいますが、私は危険ドラッグに関するディスカッショングループに参加しました。エバコナでは毎年高校準備コースの一環として「ドラッグとアルコール教育」と「性教育」のレッスンを専門家(青少年教育担当の警察官やセクシャルヘルス専門の看護師)に来て頂いて行っています。そのため、私は今回はこのディスカッショングループに参加することで何か若者のドラッグ教育に役立つ新しい情報が得られないかと思い参加しました。日本でも恐らくそうでないかと思われますがニュージーランドでも近年、年々若者の間で危険ドラッグの問題が深刻化しつつあります。
このディスカッショングループには国の厚生省からの専門家たちだけでなく、薬物依存症の人達のために働く地元のNPO団体の代表者、地元の学校のスクールカウンセラーや教育関係者、地域の青少年のためにボランティア活動を行うNPO団体の代表者、家族に薬物依存者を抱えている保護者、地元新聞社の記者等様々な人々が集まりました。このディスカッショングループの目的は国の危険ドラッグ対策に関わる専門機関の担当者が現場で問題に取り組んでいる関係者から現場でのニーズの聞き取りをして今後のサポート対策向上のためにするものでした。
薬物依存者にレッテルを張らない
この日私にとって一番印象に残ったのは危険ドラッグ/薬物依存という問題をほんの一部の特定の人にだけ起こる「犯罪」問題としてレッテルを張ってしまってはいけないという参加者全員の一致した意見でした。薬物依存という問題を社会全体の責任問題として捉える必要があること。そして薬物依存を引き起こす精神病の問題、精神病を引き起こす社会問題や家庭での教育問題、そしてそれを改善するための社会の在り方、そして教育現場と保護者とがどのようにパートナシップを築いて共に青少年教育の向上を目指せるのか等と様々な事が話し合われました。
また専門家たちから薬物依存者のリハビリの難しさ、完全なる回復へと向かう人の数がわずか全体の数パーセントにしか満たないという話もでて、薬物依存者へのリハビリ、サポートプログラムの重要性だけではなく、リスクの高い思春期の若者をどのようにして危険ドラッグに手を出す前の段階でサポートし、精神的成長を促し、社会貢献のできる大人へと育てていくかという予防対策の重要性についても話し合われました。その予防対策の柱となったのがResilience(忍耐力/粘り強さ/人生の困難を自分で乗り越える力)を子供に育むことの重要性でした。
リスクの高い思春期の若者をどのようにして導くか?
スクールカウンセラーからは学校で最近始まったResilienceプログラムについての説明(前回のブログ記事で書かせて頂きました)がありました。若者にだけでなく、保護者に対しても引き続きワークショップを提供していき、家庭教育と並行して学校でこのプログラムを思春期の子供対象に行うことが重要であるとの話がありました。また、地元のボランティア団体の代表者は家庭環境の問題等からリスクの高い青少年を集めて行っている精神育成プログラムについて話してくれました。そのプログラムはそのような若者達を船に乗せて海に連れて行くのだそうですが、自然の中で活動することによって、若者が責任について学んだり、自分の力で何か乗り越え達成する経験をして自信をつけていくそうです。家庭環境等の問題から人生の目的も無くフラフラとしていた若者達がこのプログラムでの経験を通して自分の人生に価値を見出し、成長していくとの事でした。
一人の若者がこの社会にきちんと貢献できる大人へと成長することの社会への貢献度がどれだけ大きいか、その逆が社会にどれだけ大きなマイナスであるかという事は言うまでもありませんが、なかなかだからと言って社会の大人が一丸となってこの問題に取り組むことにならないのが現実です。しかし、このミーティングに参加してみて、改めて「自分のできる事」を真剣に考え、地道に貢献をしている大人も沢山いる事を感じ嬉しく思いました。
アイスランドの社会改革
その中で、ある女性がアイスランドで国をあげて行われた社会改革の話してくれました。後で私もインターネットで調べたのですが、アイスランドでは以前若者の飲酒、喫煙、ドラッグ問題が大きな社会問題だったそうです。それを国を挙げて対策に取り組み、現在ではヨーロッパで最も若者の飲酒問題やドラック問題の低い国となったそうです。
この社会改革ですが、かいつまんで話すとハーブェイ・ミルクマンという心理学教授の考案したプログラムを元にアイスランドの国が法律を変え、大々的な社会改革に取り組みました。アルコールや煙草の合法年齢を上げるだけでなく、これらの一切の広告を違法にしたり、法律で13歳から16歳までの子供が夜10時以降(暗くなってから)外を歩き回る事を違法にしたり、親が子供ともっと時間を過ごすこと、子供の日常生活やお友達等様々な事に親がもっと興味を示し関わる事を推進するための国のサポート団体を作ったりもしたそうです。また、アルコールや薬物に手を染めたことのある14歳以上の若者を中心に音楽、アートやダンス、武術やスポーツ等を教え、低所得の家庭には国が若者のスポーツやクラブ活動のための費用資金を支援する等様々な対策をして社会全体でそれをサポートしたそうです。「何かをする楽しさ」を通して「ナチュラルハイ」を得た若者はドラッグやアルコールでそれを得ようとすることをやめ、技術を得て、「何かができる」という経験をすることを通して若者の自尊心や社交性が上がり、若者達が人生に前向きになる等の効果があったそうです。
このアイスランドの活動とその結果を見てみると、家庭環境と社会全体のサポートの両方が若者の健全な育成にどれだけ重要なのか考えさせられます。
我慢を知らない子供達
先日インターネットでこちらの教育専門家による思春期の子供に関わる面白い記事を見つけました。その記事の中でインターネットやテクノロジーの発達と物質社会の繁栄から子供は「欲しい」と言ったら何でもすぐに手に入る社会になったこと。そのために子供が何かを「待つ」という事が無くなり「我慢をする」つまり、根気や根性を家庭で学べなくなったことは大きな問題であると書かれていました。また子供が物質的にも躾の面でも家庭で甘やかされる傾向が増え、子供が自分の欲望を制御する力が養われず、それによってSelf Control自己制御や自己管理能力(自分の感情や欲望をコントロールする力)が無い子供が増えているとの事でした。このSelf Controlは子供が将来人生で成功するためには欠かせない能力だという事は様々な心理学のリサーチで証明されています。
先ほど危険ドラッグのミーティングで思春期の子供たちの危険ドラッグの予防対策の柱となったのがResilienceだと書きましたが。先日、ニュージーランドの有名な心理学者が思春期の若者の自殺対策についての話をしていました。その中でもやはり若者にResilienceを育むことが自殺対策の一つの柱になるという話をしていました。
幼児期の自由遊びが育てるResilience
その中で面白いと思ったのが、このResilienceを育む一つの要素は幼児期(6、7歳くらいまで)沢山の外遊びと自由遊びを経験すさせることなのだそうです。外遊びや完全な自由遊びを通して子供たちは想像力と自分で考える力を育みます。このような想像力はその人が大人になって問題に直面した際に柔軟な考え方でその問題に対応する力をつけてくれるそうです。私はこれは幼児期だけでは無く思春期でも効果があるような気がしました。自然の中で様々な体験をすることはインターネットや本等だけでは学ぶ事ができない幅広い「経験」を得させてくれます。四角四面な考え方だけでは人生で度々予想外の問題に直面した際に行き詰ってしまうように思いますが、柔軟な考え方/想像力が豊な人はいつでも直面した問題に「解決策」を自分で考えだす事ができますよね。
またこの専門家によると自殺対策でもう一つの大切な要素は先ほど出てきたSelf controlを子供たちに育む事だそうです。まだ人生の経験値が少なく自分の一時的な感情や欲望に振り回されてしまう子供や思春期の若者に、親/大人がしっかりとした態度でそのような一時的な感情に流されず自分で「良い選択をする」という事を繰り返し考えさせ、教え、それを練習させていく事がとても大切だということでした。
子供の睡眠時間とResilience
そして最後にもう一つ面白い話がありました。それは思春期の若者の睡眠時間の重要性でした。最近の思春期の若者は特にゲームやコンピューターの影響もあって、夜更かしをする子供が増えているように思います。しかしながら、親が子供の寝る時間をしっかりとコントロールしている(夜更かしをさせていない)家庭とそうでない家庭では子供の自殺率にはっきりと差があるとのリサーチデータが出ているそうです。そのため、いくら思春期の子供が遅くまで眠らなかったとしても、親がはっきりと就寝時間をきめて、それを実行させるようにする(コンピューターやインターネットを使わせない、部屋を暗くする)だけでも自殺率が大幅に下がるとの事でした。
最近は世界的に、危険ドラッグや飲酒の問題だけで無く、性病の蔓延、自殺、自傷行為、学級崩壊やいじめ、ニートや引きこもりの問題等、沢山の深刻な問題が青少年の間で増加しています。
今回私自身も自分自身の子育てや社会貢献について今回色々と考えさせられました。家庭教育においても社会活動においても、日々一人一人の大人が常に子供の教育について真剣に考え、問題と真剣に向き合い、どんなに小さなことでも行動に移していくことが最終的にどれだけ大きな結果を生み出すのか、そしてそれが社会改革へとつながるのかという事を今回改めて考えさせられました。
エバコナでの取り組み
エバコナでも毎年このような様々な取り組みを参考に青少年育成プログラムの向上をスタッフと共に取り組んでいます。今年度からは週1度の(主にアウトドア)アクティビティーや一泊の登山旅行以外に、生徒達の自立心や自己管理能力を育成するために持ち物から自炊までを全て自分で計画させて行うキャンプ旅行、原住民マオリ民族の文化を学ぶためのマオリ村訪問、そして今年は特別にニュージーランド環境省のボランティア、2泊のキャンプと20kmのハイキングに挑戦する修学旅行を計画しました。このようなキャンプを通して、思春期の若者達にResilienceやSelf control等を含む大切な能力を少しでも育んでもらいたいと思っています。エバコナの高校準備コースやその取り組みにご興味のある方は是非以下にお問い合わせください。
マーケティング担当:ホッピング(片山)あづみ azumi@evakona.co.nz