宇宙(うみ)さんは2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震による地震・津波と 原発事故の後にお母さんと放射能からの避難としてニュージーランドに来ました。宇宙さんのお母さんの安積遊歩さんは骨形成不全症という障害を持って生まれた方で、日本で長年障害者の自立のために社会運動をしてきた人です。遊歩さんとエバコナの校長のマクリーンは長年の知り合いで、そのご縁で宇宙さんは日本の中学を卒業した後、ニュージーランドの高校卒業を目指してエバコナの高校準備コースに入学してくれました。宇宙さんもお母さんと同じ骨形成不全症を持ってるので、2011年3月に母娘は日本から彼女たちの友人と一緒にニュージーランドに引っ越して来ました。
宇宙さんは日本では父親の運営するフリースクールの小学校に通ったのですが、そこはとても自由な環境だったので、自分のペースで勉強をする事ができたそうです。そしてその小学校で経験した自分の学びたい事を追求するという学習スタイルが好きで、お母さんの強い勧めもあり、宇宙さんは高校はニュージーランドで教育を受けることになりました。そして1年目のエバコナ高校準備コースを修了してから、次年度にニュージーランドの高校2年生に編入したのですが、「自分の学びたいことを追求できる」ニュージーランドの高校の教育方針は最初から彼女にピッタリ合っていたそうです。特にHealth(保健)やGeography(地理)の科目が好きで、自分で選んだトピックについて調べてレポートを書く事がとても楽しかったと言います。また高校時代に出会い親しくなったニュージーランド人の友人たちと関わる中で、一見外からは問題は無いように見える子たちでも複雑な家庭環境だったり、それぞれ違った悩みを抱えて生きている事が分かり、その経験が大学に進学した際、Bachelor of Social work (社会福祉の学位)を勉強したいと思うようになったきっかけだったそうです。
宇宙さんはニュージーランドの高校を卒業した後、1年間のギャップイヤーを持ちあちこちを旅行しました。デンマークにあるinternational people’s collageに4ヶ月程通い北欧独自の教育について学んだり、ヨーロッパや日本を旅したりしてアルバイトやインターンシップを経験しました。旅の間様々な国でいろいろな人々と出会います。そして宇宙さんは旅を終えた後にまたニュージーランドに戻り、こんどは南島ダニーデンにあるUniversity of Otago(オタゴ大学)に入学します。大学では先ほど述べたBachelor of Social work を勉強しましたが、そこではとても良い教授との出会いがあり、その教授から多大な影響を受けたそうです。その教授が言った言葉の中で今でも宇宙さんの心に残っている言葉があるそうです。それは「人生で大切な事は自分が何ができるのかでは無く、どんな生き方をするのかという事だ」という言葉です。
大学を卒業後、宇宙さんはダニーデンにとどまるという決断をし、NPO団体Donald Beasley Institute のリサーチャーとして就職をします。彼女の関わっているメインのプロジェクトはニュージーランド政府が国連の障害者権利条約をきちんと守っているかという事を障害のある人々にインタビューを行い調査することです。宇宙さんは子供の時から日本の障害者の自立運動を推進してきた母親遊歩さんを見て育ち、障害者が社会の中で自立して生きられるという社会構築の重要性を強く感じているそうです。そして、現在のニュージーランドの国の保健システムや資金不足の問題から障害者が24時間介護が受けられず、そのために自立生活が困難であるという事を課題に感じているそうです。
また宇宙さんはStopping Violence Dunedin という家庭内暴力を経験した人達(被害・加害に関わらず)をサポートするNPO団体でもパートタイムの仕事をしています。そこでは国のいくつかの機関とも連携しながら、過去の経験から家庭内暴力という状況にいたってしまった人々に会い、彼らが自分の過去と向き合って前へと進むための手助けをする仕事をしています。この職場ではまさに家族のような温かいチームと共に仕事ができ、自分とは全く違う境遇の中で育った人々との出会いや、本当に生きていてくれて良かったと思える人々との出会い等があり、沢山の希望を与えてもらえる職場だと宇宙さんは言います。
障害を持つ母と持たない父の元に生まれ、これまで日本とニュージーランドだけでなく世界の様々な国を旅してきた宇宙さん。沢山の異なる立場からの視点や価値観の人々と触れ合ってきて社会には人間の数だけ違った視点があるという事を経験から学んだそうです。だからこそ、違いを尊重しあい、相手のストーリーを聞き、彼らと寄り添うという今の仕事に宇宙さんの経験が生かされています。
宇宙さんはニュージーランドという国で、この国の社会問題と人々の間にある隔たりに正面から向き合い、自分が彼らのために何ができるかという事を日々模索し続けています。
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