私たちの住んでいるフィティアンガの町は海辺の町だ。公害とは無縁のこのあたりの海には海の幸が溢れていて、船で繰り出せば湾内でも鯛やしま鯵がよく釣れる。また岩場に潜ればイセエビやアワビも捕れる。
こちらに移り住んで私もすっかり釣りのファンになった。波止場での鯵釣りや浜からの投げ釣りを愉しんでいたが、ある時とうとうモーターボートを衝動買いした。それまでモーターボートなど運転したこともなかったが、買ったときには義父さんに運転してもらえばいいと軽く考えていた。
友達の家からボートが運ばれてくると、早速私は試し乗りに出るべく義父さんと子供たちに声をかけた。釣り道具を積み込み、水と食料、ライフジャケットを積めば準備完了。私はうきうきと出発準備を整え義父さんの出陣をうながす。ところがどうだろう彼は動かない。そして私に「モーターボートのことをどのくらい知っているの」と聞いてきた。「全然知らない」と私。「これは君のボートだから自分でトラクターを運転して海に行き、ボートを自分で動かして愉しむべきだよ。僕は毎回は付き合えないよ」とのたまう。
「エー」と途方にくれる私に義父さんはヨット入門の本を持ってきた。続きを読む