“地域ぐるみの体験教育”
6月に入り、フィティアンガのタウン・ホールでは恒例のファッションショーが開かれました。これは服飾デザインを通して若者たちの創造性を育て、それを発表できる場を与えようという主旨のもとに8年前から始まったもので、町の商店や住民がスポンサーになって行われています。以来MBASでもこれを美術の授業の一環として取り入れ、美術を選択した高2の生徒は毎年、ウエアブル・アートに作品を出していますが、それ以外にも小中高生が毎年沢山の作品を出して、自らモデルをし、また大人の指導の下で会場の飾り付けをし、ショーの振り付けを手伝い、進行、照明などすべてにわたって積極的に参加しています。
そのショーは約2時間半にわたり、内容も豊かで、子供服、スポーツウエア、イブニングドレス、マンズウエア、帽子等など多岐にわたっています。高2の美術の生徒が主に関わるウエアブル・アートとは普通洋服には使われない材料を使って洋服を作るもので、毎年ユニークな作品が出されます。例えば古タイヤを利用して作ったスポーティなミニのワンピース、黒いビニールのゴミ袋をつないで作ったパーティードレス、材木で作られた着る家、古毛布を使ったキャンプ用ドレスなど、奇想天外な作品が多く見ていてとても楽しいものです。
そしてそうした洋服を着て見せるモデルも半数以上がMBASの生徒です。普段ラグビーで駆け回っている男の子がショーの夜にはそれぞれ念入りにメイキャップをほどこし、派手なヘヤースタイルをきめ込んでプロも顔負けの自信に満ちた様子ででキャットウォークをする様はなかなかのものです。今年、モデルの中でも特に衆目を集めたのはMBASの生徒で19歳の蒙古症の少女リサでした。今回、彼女は自作の帽子と母親がデザインした洋服のモデルをしましたが、その弾けるような明るい笑顔と堂々とした舞台度胸で観衆からやんやの喝采を浴びていました。
この他、MBASには地域ぐるみの教育プログラムとして“トランジッション”というのがあります。これは社会に巣立っていく子供たちのための社会教育プログラムとでもいうのでしょうか。この教科では社会生活に必要な応急処置の知識、家計のはかり方、アパート生活の知恵、職業の選択、国の法律などを教え、さらには就職体験が加わります。私の長男も高1の時にこれを選択して、週1回、町のパン屋で働きました。最初のうちは下働きをしていた彼も、慣れるにつれてケーキのクリーム作りを手伝ったり、ドーナツを作ったりして働き、毎回、菓子パンのご褒美をもらって学校に戻り、最後にはパン屋のオーナーの評価と共に、うれしい成績評価を受けました。
学校で働いていると大なり小なり父兄や住民に手助けを頼むことが多多あります。ラグビーやサッカーなど学校のスポーツクラブのコーチや世話はもとより、対外試合における生徒の輸送、修学旅行の付き添いや世話などなどなど、また例年、学年末に行われてきた高3の2泊3日のマーキュリー島ダイビングの旅などは大型ヨットやモーターボートを持つ住民の協力なしにはありえないことです。
子供の教育を学校という狭い空間に閉じ込めることなく、常に住民が積極的に関わり、かつ楽しみながら参加することができるその体制に日本の戦後ベビーブームの詰め込み教育で育った私は未だに新鮮な感動を覚えるのです。
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