NZ式ワイルド車生活
ある日、フィティアンガからコロマンデル・タウンに向かって国道309号と呼ばれる山道を走っていました。 国道とは言っても、舗装のないまったくの悪路で、所によっては路肩が崩れて一方通行になっています。そこをニュージーランドのドライバー達は、土煙をあげながらビュンビュン飛ばして走り抜けます。
その日も対向車が飛ばしてカーブを曲がってきたので、私はスピードを落として待ちました。と、驚いたことにその車にはフロントガラスが無いのです。 乗っている人は全員もろに風を受けながら、あっという間に通り過ぎていきました。一瞬の事ながら、私はあっけにとられました。 しかしまったく堂々たるものです。
こちらへ来てから、スクラップ同様の車に乗っている人たちをよく見かけます。サイドミラーの無い車はざらで、あちこち塗装がはげたりへこんだりしている車、リアウィンドーの無い車、ドアが一枚取り換えられたため色の違う車等々、皆当然のこととして乗っています。 そしてエンジンの動く間は、それをさらに売りに出します。
その売り方が愉快で、車に“For sale $1000”などとステッカーを貼って、乗り回しながら買い手を待ちます。 フィティアンガのような小さな町には中古車屋もなく、そうした年季の入った車はディーラーを通すまでも無く個人取引になります。 名義変更も郵便局で簡単に済ませられます。
ニュージーランド人がこんなに徹底的に車を使うのは、輸入と国内の小規模な組み立てに頼っているために、車の値段が非常に高いからです。そしてこの国で暮らすには車は必需品・消耗品です。 特にフィティアンガのような田舎町では、車がなければお手上げです。バスはオークランド行きの長距離が日に2本あるだけで、病院、大きなスーパーマーケット、自動車販売店などのあるちょっと大きい町までは、山道を車でとばして1時間半くらいかかります。場所によっては、隣りの家まで車で20分ということもあります。その上、この辺りは凸凹の山道が多く、一度でも走ると土埃で車は汚れ、とても一々洗う気にはなりません。ですからフィティアンガでは、汚れた車・ボロ車が大手を振って走り回っています。
私がこちらで買ったトヨタ・カリーナ・バンも、今ではいつも土埃にまみれて、すっかり地元色に染まりました。 すでに走行距離52000Kmの中古車ですが、買った当時は友人に「いい車ね」とよく誉められました。日本でピカピカに磨かれた新車のような車ばかり見てきた私にはちょっとした驚きでした。
ところで、そのカリーナを買ってすぐ、私は山道で事故を起こしました。例のくねった山道を子供と犬を乗せて走行中、突然左車輪がパンクして、あっという間もなく車は一回転して路肩の土手へ乗り上げたのです。幸い全員が全く無傷でしたが、驚いている私達を見つけて、すぐに通り掛りの男性2人が助けてくれました。 手早くパンクしたタイヤを取り換えて、一番近い町までの道を教えてくれました。
でも、彼らが通らなかったらどうなっていたでしょうか。私はそれまで車の点検はおろか、タイヤの交換もしたことがなかったのですが、それ以来、この国で車を運転するには、タイヤの交換はもちろん、車の安全チェックくらい自分で出来ないとだめだと痛感しました。 人家もなく人もめったに通らない山道で、事故・故障の起こる可能性は充分あるからです。
以前、隣りのビルが「この国は人口が少なくて、特に田舎ではすぐに人手が頼めないので、皆何でも自分でやるんだ」と言って、古い農業用ジープを三日がかりで直していました。 ローラのご主人アーティも、車の修理に関しては玄人はだしです。 私も今では何とかタイヤ交換くらいはできるようになりました。
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