薪ストーブの秘訣
6月の半ばになり、フィティアンガは本格的な冬を迎えました。 こちらの冬は曇り空で雨が多いと聞いていました。今のところ天気は上々。冷たい南風が吹かない日は、太陽がポカポカと暖かく、日中は汗ばむほどですが、そんな日の朝晩はぐっと冷え込みます。
6月に入って急に、どこの家の煙突からも朝夕薪ストーブの煙が上がるようになりました。それはなんとなくのどかな風景です。この辺りの冬の暖房は何と言っても薪ストーブが圧倒的です。豊かな森林に囲まれ、薪がいくらでも手に入るからです。料理にも薪を使う家庭もすくなくありません。
広い土地を持つ牧場主やブッシュに住む人たちは、所有地内に転がる倒木を自然乾燥させて、適当な時期に必要な分をチェーンソーで切り出します。それを斧で割って家の周りに積み上げていきます。冬の間、薪作りはどの家でも男の大事な仕事で、かなりの重労働です。
私たちのように町に住む人間は、近くの牧場主や材木屋が売りに出す薪を買います。地方紙の広告欄には「松材の薪、乾燥充分、トレーラー1台分40ドル」などと広告が出ます。(このトレーラーは乗用車の後ろにつけて引く小型のもので、物の運搬によく使われる)また、焚き付け用に松ボックリも時に売りに出ます。こちらの松ボックリは日本の4.5倍ほどの大きさで、松林へ行けば幾らでも拾えますが、子供が小遣い稼ぎに集めたのでしょうか、先日も大袋2つで5ドルと売りに出ていました。
冬の初め、私たちも隣のパットとビルの紹介で、地元のライオンズクラブが売り出した薪をトレーラー3台分買いました。ビルが「本当は今から買うのは遅すぎるんだ。今年買った薪は来年まで置いて、十分乾燥させて使うものなんだよ」と教えてくれましたが、その時はそんなこと気にも止めずにいました。でもその後ですぐに、それがどんなに大事なことかが分かりました。
買った薪を割り始めましたが、新しい薪は、力を入れて割ってもなかなか割れないのです。我が家の前の持ち主から貰い受けた一年前の薪は斧を入れるとポンポン弾けるように割れていくのに、新しい薪はギシギシいってなかなか割れないのです。割るのに2倍も3倍も力が要ります。そのうえ、ストーブで燃やすと乾燥度の足りないものは、余計に煤が出て、煙突掃除にも手間がかかるということが分かりました。何事も初体験の私たちは自然の中で生活する知恵をひとつ学びました。
そんな訳で、今年買ったトレーラー3台分はなるべく来年まで乾燥させて置き、その代わりに今年は何を燃やそうかとゆうことになりました。子供たちの提案で、海岸にたくさん落ちている流木を集めてみることにしました。散歩の途中で子供たちが拾い集めたものをストーブに入れてみるとパッとよく燃えます。それではと、ある日家族全員車に乗って近所の海岸周りをしました。
せっかくなのでなるべく大木を集めようと、鋸を持って行きました。「ここにもある」「あそこにもある」と子供たちの歓声に励まされ、ギコギコと太い流木を切り始めました。ところがそれは思ったよりも大変な作業でした。流木は砂にまみれていて、仕事はなかなか進みません。30分ほどかかってやっと直径20㎝ほどの木を切り分けました。また、ほどほどの長さ太さの木を見つけたものの、半分砂に埋まってしまっていてびくとも動かなかったりします。こんなにある海岸の流木を地元の人が見向きもしないのは、この辺に理由があるようです。
後でビルに聞くと、塩気を含んだ流木は、ストーブにも良くないと言われました。まだまだ都会から来た私たちには、この冬は学ぶことが多そうです。
このごろ、私たちは散歩のたびに、山から松ボックリや小枝を集めて帰ります。それは“おじいさんは山へ柴刈に”というあの日本の昔話に戻ったような懐かしい生活です。
7月に入り、やはり雨の日が多くなりました。一度は豪雨があり、その時は低地に川の水が溢れ、牛や羊が水に浸かり、一部道路も閉鎖されました。年によっては豪雨が続くことがあり、川の水が溢れ出して満潮と重なると、海岸に面したフィティアンガの町の一部が浸水することもあるそうです。
ニュージーランドに来て驚いたことは、川に堤防が無いことです。都市部は別ですが、どの川も人工的な手を加えられることなく、悠々と緑の田園を流れています。それにしても大雨による洪水の被害はないのでしょうか。エリア・スクールの校長先生に伺うと、「この国は人口が少ないので、予算をかけて堤防を作るまでも無いのですよ。浸水しそうになったら川の周辺の一軒か二軒の住民が避難すれば済むことで、多少の動物の被害は出ますが。」
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